大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)96号 判決 1977年7月27日

原告

富士写真フイルム株式会社

右代表者

平田九州雄

原告

東洋醸造株式会社

右代表者

小川三男

右両名訴訟代理人弁護士

中村稔

外一名

被告

特許庁長官

熊谷善二

右指定代理人

桜井常洋

外二名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  請求の原因

原告ら訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。

(特許庁における手続)

一、原告富士写真フイルム株式会社(以下、その商号を「富士フイルム」と略称する。)及び原告東洋醸造株式会社(以下、その商号を「東洋醸造」と略称する。)は、名称を「マイクロカプセルの製造方法」とし特許を受ける権利を共有する発明につき、昭和四五年二月三日共同して特許出願をしたが、昭和四九年七月五日拒絶査定がなされ、同年九月三日拒絶査定の謄本の送達を受けたので、原告富士フイルムは同年九月二六日単独で審判の請求をし、特許庁昭和四九年審判第七八六五号として審理されることとなつた。そして、原告らは昭和五一年六月八日共同して審判請求人の表示をその両名と補正した「審判請求書(補正)」と題する書面を提出したが、特許庁は同年七月二二日原告富士フイルムのみを名宛人として「本件審判の請求を却下する。」との本訴請求の趣旨掲記の審決をし、その審決の謄本は同年八月一一日原告に送達された。

(審決の理由)

二、右審決の理由は次のとおりである。

富士フイルム及び東洋醸造(いずれも本件原告)が共同してした特許出願の拒絶査定に対する審判の請求は、特許法第一三二条第三項の規定により、その両名が共同してしなければならないところ、本件手続においては、その一人たる富士フイルムのみによつてなされたから、不適法であつて、その欠缺を補正することができないものと解されるので、特許法第一三五条の規定により、これを却下する。<以下省略>

理由

一前掲請求の原因事実中、原告らが特許を受ける権利を共有する発明について共同してなした特許出願から審決の成立に至るまでの特許庁における手続及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。

二まず、念のため一言するに、右事実関係に照すと、原告東洋醸造は右審決においてその名宛人とされていないが、その審判手続において原告富士フイルムと共同の審判請求人たる地位を有したと主張して、右審決の取消を求めるため本訴を提起したものであるから、特許法第一七八条二項にいう審判の「当事者」に準じて右訴につき原告適格を有するものと解するのが相当である。

三そこで、右審決の取消事由の存否につき判断する。

前示一の事実によれば、原告らは、特許を受ける権利を共有する発明につき、共同してした特許出願の拒絶査定を受け昭和四九年九月三日その拒絶査定謄本を送達されたが、その日から三〇日以内には原告富士フイルムが単独で審判の請求をしただけで、右期間経過後の昭和五一年六月八日に至りようやく両名共同して審判請求人の表示に原告東洋醸造を加入した審判請求書を提出したものである。ところが、特許法第一三二条第三項は、特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するには、共有者の全員が共同してすることを要する旨を規定しているから、共有者がした共同出願の拒絶査定に対する審判請求においても共有者が共同してすることが審判請求の適法要件であると解せられ、したがつて、原告富士フイルムが単独でした審判請求は不適法というほかはなく、その補正をすることができないから、同法第一三五条の規定により却下を免れない。なお、原告らが共同して審割請求人の表示に原告東洋醸造を加入した審判請求書を提出したのは、同原告のためには原告富士フイルムと共同して審判を請求する趣旨に解すべきものとしても、審判請求の除斥期間経過後のことに属するから、特許法第一二一条第一項の規定に牴触し、不適法というべきであつて、原告富士フイルムが単独でした審判請求と合してもこの場合における審判請求の適法要件を充足するに足りない。

原告らは、特許を受ける権利を共有する原告らが共同してした特許出願の拒絶査定に対する審判請求については民事訴訟法第六二条第一項の規定が適用され、原告富士フイルム単独でした審判請求により原告東洋醸造のためにも審判請求の効力が生じるものと解すべきであると主張する。なるほど、特許を受ける権利の共有は合有的性質を有するため、その共同出願の拒絶査定に対する不服審判においては査定の当否を共有者全員について合一に確定する必要があるという意味で、共有者の間に民事訴訟法にいわゆる固有必要的共同訴訟に類似する共同審判の関係が認められ、また、固有必要的共同訴訟においては、民事訴訟法第六二条第一項の規定により、共同訴訟人の一人が上訴すれば、自ら上訴をしなかつた他の共同訴訟人にもその効力を生じるものと解されるが、仮に特許出願に関する審査と審判との間に前後審の連続関係があるとしても、特許法第一三二条第三項(第一四条参照)は、前述のように、拒絶査定に対する不服の審判を請求するには共有者の全員が共同してしなければならないと規定しているからその共同審判の請求について民事訴訟法第六二条第一項の規定を適用する余地はないものといわなければならない。原告らは、右規定を固有必要的共同訴訟(審判)一般の原則的法理であるとして、その適用を排除、制限する明文がない限り当然適用すべきであると主張するが、固有必要的共同訴訟(審判)において合一確定の効果を挙げるのに右規定によるか、特許法第一三二条第三項によるかは立法政策の問題であつて、前述のとおりかかる場合の明文規定として後者が厳存するのにあえて前者を優先適用すべき合理的根拠も見出すことができない。原告らはこの種の共同審判の請求につき民事訴訟法第六二条第一項の適用を排除し特許法第一三二条第三項を適用するのは、審判請求をした共有者の権利を犠牲にするものであつて、憲法第二九条(財産権の保障)、第三二条(裁判を受ける権利の保障)に違反する疑いがあると主張するが、特許法所定の手続に従うならば、特許を受ける権利の伸長、防禦に支障を生じることはないから、原告らの右主張には左袒することができない。

次にまた、原告らは、共同審判の請求における特許法第一三二条第三項違反を同法第一三一条第一項の違反と同じく審判請求書の形式的な記載方式違背にすぎないとし、原告富士フイルム単独でした審判請求について補正の機会を与えないで、これを却下したのは手続上、法令の解釈、適用の誤りであるというに帰着する主張をするが、右主張は、民事訴訟法第六二条第一項の原則的適用を前提とする点において失当であるのみならず、特許法第一三三条第一項が補正の対象として規定しているのは同法第一三一条第一項または第三項の規定する審判請求書の方式違反に限られ、同法第一三二条第三項違反のように専ら審判請求をしない他の共有者の意思にかかることまで含むものとは解し難いから、原告らの右主張も採用し難い。

以上の次第で、原告富士フイルム単独でした審判請求を特許法第一三五条により却下した審決の判断は正当であつて、審決に原告ら主張のような違法はない。

四よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告らの本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(駒田駿太郎 橋本攻 永井紀昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例